現 代 の 蛮 行 (犬) -3-
数多くの動物実験に関する写真の中で、私が最も大きな衝撃を受けた写真でしょう。
この写真をきちんと目にするまでに、とても時間がかかりました。
怒りと悲しみを通り越して、本当に言葉が出ないのです。
ベルギーのゲント州立大学薬理・治療学研究所のコルネイユ・ハイマンス教授はこの写真を
自分の研究室の壁に貼っていた。胴体からほぼ完全に切り離した犬の頭部を生かしておくために、
別の頭のない犬の胴体の動脈から血液を送る。その犬の胴体を生かしておくには人口心肺装置が
用いられる。教授の「血圧研究」の一部として行われた実験である。
ハイマンス博士の同僚の学者たちはこの成果に熱狂、彼を1938年のノーベル賞に推薦した。
しかし英国の外科医で、医学誌研究者でもあるM・ベドウ・ベイリー博士は、この実験にやや冷たい
論評を加えている。
「このような方法で得られた結果を人間に応用できると考えるのはまったくの愚か者だけである。
論理的に堕落しきった科学者でなければこんな実験を思いつき、実行に移すことはできない。
たとえハイマンスが犬を使って30年間も実験して得た結果が正しいと証明されたとしても、
人間の高血圧の理解をほんの少しでも先へすすめたとは言えないであろう。」
ベドウ・ベイノー博士のいうとおり、ハイマンス博士が人類にもたらした唯一の知恵はノーベル賞を
獲得する新しい手段だった。今日、高血圧の問題はなお未解決であり、研究者たちがつぎつぎに
開発する降圧剤はたいして役に立たないばかりか、がんの発生率上昇の原因にさえなっているのだ。